2025年4月、建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象が拡大されます。

建設業の労働災害による2023年の死亡者数は、ここ約50年のあいだで過去最少となりました。
しかし死亡者数は減少しているものの、全産業に占める割合は以前として最も高いことに変わりはありません。

2025年4月から、建設業における安全衛生対策に関する保護措置の対象が拡大されます。
従業員のみならず、現場で働くさまざまな人々を守るための法改正です。

今回の記事は、建設業における安全衛生対策や法改正の内容、事業者の対応について解説します。

目次

危険が伴う建設現場での作業

1 死亡者数は全業種の中で最多

建設業の2023年の労働災害による死亡者数は223人で、全業種の約29.5%を占めています。(新型コロナウイルス感染症への罹患による労働災害を除く)

建設現場には、重機などの建設機械を使用したり、山間部や河川などの危険な場所や、高所など足場の不安定な場所での作業も多くあります。そこで働く人々の多くは、常に危険と隣り合わせの環境で作業をしているといえます。

2 複数の事業者による現場作業

建設業では、発注者からゼネコンなどに仕事が発注され、その仕事の一部をさらに別の事業者が請け負うことがしばしば見られます。

そのためひとつの事業者が単独で作業する現場だけでなく、複数の事業者が作業する現場も多くあります。

発注者から仕事を受けた事業者を元請事業者、元請事業者から仕事を請け負う事業者を下請事業者といいます。
ときには下請事業者の仕事の一部をさらに別の事業者が請け負い、二次下請事業者、三次下請事業者等によって作業が行われることもあります。

このような請負関係を「数次(すうじ)の請負」といいます。


建設現場での作業は危険度が高いことに加え、こうした数次の請負による施行体制の複雑化で、施工管理や安全管理面への影響や弊害が生じるおそれもあります。

3 建設現場の安全衛生管理体制

業種や従業員数に応じて、安全や衛生に関する管理者などの選任が法令等によって定められています。こうして確立された体制を安全衛生管理体制といいます。

事業者には、安全衛生管理体制の確立のほか、労働災害を防止するための具体的な措置の実施など、従業員の安全と健康の確保が義務づけられています。

建設現場には、数次の請負により複数の事業者が作業する現場が多くあります。

こうした現場の安全衛生管理体制では、元請事業者が統括安全衛生責任者や元方安全衛生管理者を選任し、下請事業者が安全衛生責任者を選任します。作業によっては、下請事業者による作業主任者や作業指揮者、誘導者などの選任も必要となる場合があります。

建設業における安全衛生対策

1 2024年度の安全衛生対策

建設現場は、「墜落・転落」や「はさまれ・巻き込まれ」などの生死にかかわる重篤な労働災害が発生しやすい環境にあります。

政府は毎年度、労働災害の未然防止や減少に向け、建設業の安全衛生対策や各対策に対する事業者の取り組みなどを公表しています。

2024年度の建設業における安全衛生対策は以下のとおりです。

以下のサイトでは、各対策に関する参考資料が紹介されています。
参考|東京労働局『令和6年度 建設業における安全衛生対策の推進について』

2 2025年4月、保護措置の対象拡大

事業者には雇用する従業員の安全と健康を確保する義務があります。
そして当然ながら、従業員だけではなく、現場で働くすべての人の安全と健康も最大限尊重しなければなりません。

そのため2025年4月から、事業者には従業員だけではなく同じ現場で働くすべての人に対し、危険箇所等での作業に対する措置を行うことが義務化されます。

なお、従業員に対する義務については今後も変更ありません。

【改正内容①】保護する対象範囲の拡大

2025年4月からの建設業における安全衛生対策に関する主な改正内容は2つあります。

ひとつ目の改正内容は、危険箇所等での作業に対する措置(退避、危険箇所への立入禁止等、火気使用禁止、悪天候時の作業禁止など)における、保護の対象範囲の拡大です。

1 改正後の保護対象


現在は、自社の従業員に対し、危険箇所等での作業に対する措置を行う義務があります。

今後は従業員だけでなく、同じ現場で働くすべての人一人親方や他社の従業員、資材搬入業者、警備員など)に対して措置を行わなければなりません。

2 改正後の事業者対応

保護の対象範囲が拡大されることにより、これまで従業員に対して行っていた措置を、以下のように同じ現場で働くすべての人を対象に含めて行っていくことになります。

【複数の事業者が作業を行う現場での措置】
事業者は危険箇所等での作業に対する措置を行う義務がありますが、同じ現場で複数の事業者が作業を行う場合、立入禁止などの表示や掲示をそれぞれの事業者ごとに行う必要はありません。共同で行うことも可能です。

【事業者の義務の範囲】
事業者が以下のような措置を適切に行ったにもかかわらず、同じ現場で働く従業員以外の人がそれを無視した行動を行った場合、事業者にその責任を求めるものではありません。

・立入禁止や火気の使用禁止を明確に表示等しているにもかかわらず、立ち入ったり火気を使用したとき
・明確に退避を求めたにもかかわらず、退避しなかったとき

【改正内容②】下請事業者や一人親方への周知の義務化

2つ目の改正内容は、作業の一部を請け負わせる下請事業者や一人親方に対する保護具等の使用に関する周知の義務です。

立入禁止等の措置を行う危険箇所等では、例外的に作業を行わせるため、従業員に保護具等を使用させる義務が発生する場合があります。

この作業の一部を下請事業者や一人親方に行わせるとき、事業者は今後、下請事業者や一人親方に対して保護具等を使用する必要があることを周知しなければなりません。(事業者は下請事業者や一人親方に対して指揮命令を行うことはできないため「周知」という形になります。)

周知方法は以下のとおりです。

(出典)厚生労働省『2025年4月から事業者が行う退避や立入禁止等の措置について、以下の1、2を対象とする保護措置が義務付けられます』

また、下請事業者や一人親方が適切な保護具等を選択できるよう、事業者は保護具等の種類や性能などについての情報を提供することが望ましいとされています。

【そのほか推奨すべき周知】

事業者が下請事業者や一人親方に以下の作業を行わせる場合、今後は「保護具等の使用」や「特定の手順や方法により作業を行うこと」が必要な旨を周知することが推奨されます。

・従業員に適切な保護具等を使用させることが義務付けられている作業を行わせるとき
・特定の手順や方法が義務付けられている作業を行わせるとき

【周知はどこまでの範囲に対して必要か】

事業者は請負契約の相手方に対して周知を行う必要があります。たとえば、一次から三次までの下請事業者がいる現場では、一次下請事業者は二次下請事業者に対して周知義務があるものの、三次下請事業者への周知義務はありません。三次下請事業者への周知義務は二次下請事業者にあります。

事業者は、下請事業者や一人親方に対し、保護具等の使用について確実に分かりやすく周知することが重要です。そのうえで、下請事業者や一人親方の判断で防護具を使用しなかった場合は、事業者にその責任を求めるものではありません。

おわりに

事業者には、従業員の安全と健康の確保が義務付けられています。

あわせて、自社の従業員だけでなく同じ現場で働くすべての人々の安全と健康を守る意識を持って行動することは、労働災害の未然防止や減少、労働安全衛生の質の向上につながると期待されます。

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